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RAIN



それは、昼か夜かもわからない、不思議な灰色の塔が立ち並ぶ、樹海の奥深くでの出来事。



赤い瞳に疲れの色を浮かばせるアルケミストが、長い黒髪をかきあげたその時、ごつごつした手甲に小さな雫が当たって砕けた。
不思議に思い視線をそれに向ければ、一筋の透明な線が描かれていた。
同時に、あたりからしとしとと静かなざわめきが聞こえ始める。木々はそのざわめきに答え、ざわざわと葉を揺らした。

顔を上げて空を仰げば、雨が降っていた。

「うっわなんじゃこりゃ!? 雨!?」
パーティーリーダーの青髪のソードマンが、同じように空を仰ぎながら言った。
「もう何が起こっても驚かないな。……取り敢えず雨をしのごう。毒性があったりしたら大変だ」
柔らかな金髪を揺らすレンジャーが、ゴーグルをかけながらそう促した。
樹海での雨なんて初めてのことであったし、何より彼らが立っているその場所は一本の倒れた大木の上。
聳え立つ灰色の塔と塔を行き来するための唯一の架け橋は、長い歳月を渡ったようでとても脆く、幅も狭い。
高い位置に渡されたそれから一歩でも足を踏み外せば、緑と灰色のこの樹海に赤い花を散らすことになる。
そんなただでさえ危ない場所が、雨のせいで湿って滑りやすくなっては大変だ。
全員が、無言で頷いた。

すでに湿って滑りやすくなった大木の上を急ぎ気味に駆け抜ける。
途中重装備のパラディンが足を滑らせかけたハプニングがあったが、何とか全員渡りきることができた。
その直後、見計らったかのようなタイミングで、雨は急に勢いを増し始めた。
「……これはしばらく止みそうにないな」
「イェト、どうすんだよ、磁軸はあっち側だぞ」
壁に寄りかかるようにして座り、外の様子を見ていたレンジャー――――イェトがそう言うと、ソードマンが大木の向こうを指差した。
そろそろ地上に戻ろうと磁軸を目指して大木を渡り始めた一行だったが、咄嗟に距離的に近かったこちら側に戻ってきてしまったようで。
「ノルジス、糸はあるか?」
濡れた白衣を脱いで足を投げ出していた、ノルジスと呼ばれたメディックがイェトを一瞥し、かばんの中をひっくり返す。
出てきたのは空っぽの薬瓶が五本と未開封の薬瓶が一本、捜索中に見つけた小さな水晶の欠片が一つ、それだけだった。
「無い、か……」
「誰かさんが糸を買い忘れたお陰でなー」
落胆するイェトの後にノルジスが言葉を継いで、ぎくりと身を硬くしたソードマンを見る。
「い、いや、悪かったって!すまん、このとおり!」
手を顔の前で合わせて頭を下げるソードマンの様子を見てイェトが小さく笑う。
「まあガロットに任せた俺たちにも責任があるしな」
「取り敢えず止むまでは待ちましょう」
小さな雨の粒がついたままの金髪をゆらすパラディンの少年が提案すると、全員が納得したようで個々の作業をし始めた。
壁を叩く雨の音が妙に響き渡る。しかしそれも慣れれば心地よいものに変わり、気にするものは誰も居なかった。
ゴーグルと帽子を取り、弓の弦の点検をするイェトに、今まで一言も発しなかった黒髪のアルケミストがぼんやりと虚空を見つめながら問うた。
「イェト」
「どうした?」
「何で雨が降るんだろう」
疑問に思うのは至極当然のことだったが、『不思議な樹海だから』と自然に片付けていたイェトは、弦を弄る手を少しとめてから答えた。
「階層が変わるたびに気温も何もかも変わるこの樹海のことは全然わかんねーけど……俺たちがそういうことを異常だと受け止めているだけで、ここは普通の事なんじゃないかな」
口に出してから、イェトは少しだけ後悔した。答えになっていない。
だが意外にもアルケミストは納得したようで、小さくうなずくと雨で霞む外に目をやった。
「この樹海も……一つの世界なんだな」
ぼそりと呟いたその言葉が、嫌にはっきりとした声となってイェトの耳に届いた。
(……?)
イェトはその瞬間、ほんの一瞬だが、焦りを感じたような気がした。
何故かは、きっとその瞬間しかわからなかったのだろう、今考えても全くわからない。
ただ外を見るアルケミストの瞳が、まるで吸い寄せられるかのような錯覚を覚えるほど澄んでいた、それに何かを感じたことだけはわかった。
「まーた変なこと考えてんだろ、ジルクア。あんまり色々なもん考えすぎると壊れちまうぞ」
ぼすっとジルクアの黒髪が降ってきた白衣に隠される。ノルジスが呆れたように彼の後ろに立っていた。
「おおー!!見ろ、キルバ!雨が上がりそうだぞ!誰だよしばらく降りそうだなんて言ったやつはよお!」
ガロットがパラディンの少年、キルバを手招きしながら窓から身を乗り出している。
いつの間にか雨は勢いをなくして、ぽつぽつと時々輝きながら落ちていくだけだった。

「かえろーぜ!今日はもう飯食って寝る!」
「そういえばもう夜なんだな。この階層いつも明るいから時間の感覚くるうな」
「ガロットの腹時計があるから大丈夫だろ。アイツの飯代を糸代にあてろ」
「おいノルジス根に持つなよ!悪かったって!っつーかイェト、レンジャーなんだから時間の感覚ぐらいちゃんとしろよな!」
「まあそれも当然だが、こいつにだけは言われたくないよな、イェト」
「どういう意味だそりゃ!」
「ああっ二人ともこんなところで暴れちゃ落ちちゃいますよ!」
「ああもう早く行け!もういっそ落ちろ!」
「なんてこと言うんだイェト!!信じてたのに!」
「俺もかよ!」
「はい、さっさと歩く」

雨上がりは、地上でも樹海でも、やはり気持ちがいいもので。
賑やかに大木を渡る4人の後ろで、ジルクアが静かに空を仰いだ。

――――― 一つの世界

そう認識したその時から、自分の中で何かが変わった気がした。
何かは正確にはわからない。ただ、確実に。

「ジルクアさんー!ガロットさんとノルジスさんが暴れだしたんで手を貸してくださいー!!」
呼ばれた声に現実に引き戻され、自分でもよくわからない笑みを浮かべる。
「ああ、ちょっと待っててくれ」






















意味わからん