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小噺

ちまちまSSS。
自ギルドです。ちまちま増えます。


*拙者と師匠1
*金の小鳥
*桃色プディングベリーソースがけ果物添えおっさんシェフ風
































*拙者と師匠1
「おーおー色んなモン売ってんだなあ海都ってえのは!」
深い藍のポニーテールが、拙者の眼前でゆらゆらと揺れる。
右へ行ったと思えば、今度は左に翻る。時々それに同じように跳ねる真紅のマフラーが混ざって、ひどく鮮やかに彩られる。
白く眩しい家々の間を縫うように進む、ギルドメンバーの一人、同じシノビのコキヒに――――
「師匠って呼べっていったろーう?」
……もとい、我が『師匠』に尋ねる。
「師匠」
「なんだい我が弟子よ!」
「皆から樹海探索の備品の買出しを頼まれたのに、こんなところで散歩などして油を売ってて宜しいんでしょうか」
メディカやアムリタ等、樹海探索に欠かせない物資が沢山入った紙袋を抱えなおしながらそう言えば、その紙袋を拙者に押し付けた張本人である師匠が、分かってないと言う様に頭を振る。
「ぜんっぜん分かってないのーこのあっしの誇り高き弟子であるというのに」
やれやれと肩をすくめると、師匠は立ち止まって人差し指を此方に突き出す。
「いいか! あっしはな、ただこの海都の美しさを楽しみながら散歩をしているわけではないっ! 海都の隅々まで知り尽くしておけば、例えば今後何か危ない目にあったり襲われたりしたときに有利になる! これも修行やで!」
相変わらず可笑しな喋り方で大真面目に言う彼女に若干の眩暈を覚えるが、もう慣れてしまった。
「それならば、そうと言っていただけませんか」
「お前の優れた才能を信じた結果じゃ。ありがたく思うがいい!」
「…………」
彼女の発言には度々理不尽だ、と思うのに、いつもどうしても言い負かすことが出来ないのは、拙者の未熟さのせいなのか、それともこの師が何枚も上手なのか。
いや、ただ単に言い返すのが面倒くさくなるほど馬鹿馬鹿しくて呆れてしまう発言ばかりだからなのだろうが、それはそれでなんとなく悔しい。
「では今からきちんと修行に取り組みますので、一つほど紙袋を持っていただけませんか。5つも抱えていては前方を見るのがやっとです」
「いいか! たとえどんなに小さく、面倒くさいことでも、あっしがやろうとしている事は、自ら進んで『やります』と言って請け負う! これも立派なシノビになるための修行!」
最後にわかった?と付け加えて、拙者の返事も聞かずに再び歩き出す。
ちょっとまて、やっぱり自分が持ちたくないだけじゃないか。
舗装された白い道路を楽しそうに歩く我が師匠の後姿を見て、はあと深いため息をつく。
眩暈は頭痛に変わる。がしかしこれも大分慣れてしまったことに気付いて、ちょっと悲しくなる。
きっと誰だろうと、彼女に勝てはしないのだろうと、つくづく思う。
何時だって突拍子が無く、飄々としていてつかめない。
彼女がギルド入りしたのも、なりゆきで。いつの間にか拙者の後ろにくっついてきていた。
『たまたま見かけたから』という良くわからない理由と、へらっとした憎めない笑みと一緒に。
この彼女の師弟関係も彼女の強引な提案から始まった。
思えばずっと彼女に振り回されっぱなしだ、と気付いて、更にずきずきと頭が痛くなる。
それでも憎めないのは、彼女の性格ゆえか。
考えているうちに、出店が並ぶ開けた大通りに出る。
だいぶ先を歩いているその背中を、紙袋の中身を落とさないようによろよろと追う。

――――――あ。

一人、いた。
むちゃくちゃな彼女に太刀打ちできる人――――――

「……――――〜〜〜〜〜〜ッ!???!!??」
「いやあ〜コキヒ心配したぜ! ぜんっぜん帰ってくる気配ねえんだもん!」
わき道からひょいっと狙ったようなタイミングで出てくる背の高い金髪の男。
その右手は師の二の腕に、そして左手は―――――

「――――〜〜ッこのセクハラドヘンタイがあーーーーッ!!!!」
いっそ気持ちが良くなるくらい高々と通りに響く、彼女の見舞った一撃の音。
被害者(というには自業自得過ぎるが)が中空に舞い、まるで時が止まったような一瞬の後。

ドンガラガッシャン!

新鮮な野菜を売っていた出店に、突っ込んだ。
野次馬が群がる中心に、肩をいからせ、顔を赤らめて、ぴくぴくと痙攣している男を見る我が師。
しかしその両手は、さりげなく臀部を隠そうとしているのが見て取れる。

一時騒然となる大通り。
拙者はその光景を遠巻きに眺めて、胸中で先刻の言葉を撤回した。

……コキヒでさえ、彼には敵わない。
変態バリスタ、ギーハイボンには。

そんなことを悟った、天牛ノ月の、ある一日。






*金の小鳥
「ばっかじゃないの!? あなた!!」
半ば引きずるように俺の手を引いている張本人から罵声が飛んでくる。
時々足が縺れそうになるが、そんなことを気にしてはくれない。
「道具も何も持たずに樹海に入るなんて、一体何考えてんのよ! 樹海なめんじゃないわよ!!」
「いや俺だって別に入りたくて入ったわけじゃねーし……」
「うっさい! 言い訳なんて聞きたくないわ! 人に迷惑かけたことを自覚しなさいよ!!」
こんな強面の海賊に向かって、よくそんな口の利き方ができるもんだ…。
普通の奴ならすくみ上がっちまうっていうのに。
「いやだって俺、今日始めてこの街に来て、で、なんだかわからねえうちに色々あって」
「言い訳なんて聞きたくないって言っているでしょ!! もう全く本当にしょうがないんだから大人の癖に!」
事実を言おうと再び口を開けばすごい剣幕で遮られる。
俺、そんなに悪いことしたか。
久しぶりに陸でのんびりしようとしたら、暗殺者やら憲兵やらに追われて、命辛々逃げてきたってえのに。
すげえ理不尽な女。だがこれ以上反論しても無駄な気がする。こういうのは早めに折れるのが一番だ。
「……ほんとすんません。もうしません。ので、出口に連れてってくれねーか」
「反省すればいいのよ! 全くもうこれだから大人っていうのは……」
文句を零しながら歩を進めるたびに、目の前の長い髪の毛がゆらゆら揺れた。
見慣れた―――というに自分は相応しくないが―――貴族特有のハニーブロンドの質の良さそうな金髪。
貴族…それも王族の類か。
なかなか面倒なのに捕まっちまったなあと頭を掻く。俺の正体に気付いてなきゃいいが。
念のため、と剣の柄に手を伸ばしかけたとき、女がくるりと急に此方に向き直った。
長い金髪が揺れて、澄んだ海の色の瞳が印象的な、俺とは何もかも対照的な小娘。
ちょっと不服そうに眉をひそめながら、こう言った。
「素性も分からない貴方に頼るのは本当に癪だけど、ここは協力して出口を探すしかないみたいね」

…………

「おめえも知らねえのかよ!!」
「うるさーい! わかんないモンはわかんないのよっ!!」
正体がバレる可能性なんてすっかり忘れて、思わず叫んだ。
俺とこの小娘の嘆きが、街まで届くんじゃないかと思うくらい、大きく響いた。






*桃色プディングベリーソースがけ果物添えおっさんシェフ風
ごーん ごーん
宿屋の一室に設えられた大きな時計から重たい音が聞こえてきて、つられてそっちに顔を向けた。
「3じだ! 3じだよライちゃん!」
ベリーシュが立ち上がって、嬉しそうにぴょこぴょこ跳ねた。
「おお、そうだな、おやつだな! 一回遊ぶの止めておっさんとこ行くか!」
にっこり笑ってそういうと、わーいと万歳をして、おもちゃも片付けずに部屋を出て行ってしまった。
苦笑しながらボールやらお人形さんやらをとりあえず退けておいて、オレも続いて部屋を出る。
宿屋には冒険者達が自由に使って良い台所があって、其処には薄いピンクのエプロンをつけたダヴラスが立っていて、
その向かいのテーブルには既にベリーシュと、その兄貴のセディ、それからカミュナが座っていた。
「ほら、ライグ、お前も座れ」
保冷室から何やら取り出しながら、ダヴラスがこっちを見て顎でテーブルを示す。
「いいんスか? オレ子供じゃないっスよ?」
「阿呆。俺から見れば皆ガキだ。いいから座れ」
苦笑しながらオレが座るのを確認すると、ダヴラスは桃色のぷるぷるふるえる物を白い皿に乗せてテーブルまで運んできた。
「わー! ねえダヴちゃんこれなあに?」
順番に配られるそれを見て、ベリーシュが目を輝かせながらそう尋ねる。
セディとカミュナも不思議そうに、一緒に置かれたスプーンで突いてみたりしながらダヴラスに目を遣る。
「これはな、プディングというんだ。今日のおやつは、桃色プディングのベリーソースがけ果物添えだ。」
オレの前に置かれたそれをまじまじとみつめる。
桃色の……プディングというもの。
その上には紅色の甘い匂いを漂わせるソースがかかっていて、周りには市場で良く見るオレンジ色や若草色や黄色の果物が綺麗にスライスされて、花びらのように美しく盛り付けてある。
雪のように(実際の雪は未だ見たことが無いが)粉砂糖が全体的にかかっていて、それが更に甘い匂いを増幅させているようだった。
「おいしーーーーーーーーー!!!」
部屋に響き渡る絶叫。カミュナが頬を押さえながら幸せそうに顔を緩ませていた。
「もーうダヴちゃんの作るの全部好き! ダヴちゃんは本当に良いお嫁さんになるね」
「……勘弁してくれ」
「だーいじょうぶ! あたいが貰ってあげるから! ダヴちゃん大好きっ!!」
「だぁああ食器洗ってんだからくっつくな! 落ち着いて食え!」
ぎゃあぎゃあと響く声を他所に、セディがにこりと笑って言う。
「いやあ本当にダヴラスさんは料理が上手いんですね。僕こんなに美味しいものは初めて食べました」
その隣でプディングを食べるベリーシュの口の周りは、プディングのソースがくっつきまくっている。
既に彼女の皿の上は食べかすだけしか残っていなかった。 あまりのプディングの美しさに思わず見とれてしまっていたが、恐る恐る(というと変な感じだが)一口、スプーンで掬って口に運んだ。
――――美味しい。
口の中に広がる、甘酸っぱい味。すごく優しくて、あったかい味。
感動すると同時に、笑いがこみ上げてきた。
だってこれ、あのおっさんが作ってるんだぜ?
普段は樹海で槍をぶん回したり自ら敵に突っ込んでったりする、あのガタイの良いおっさんが。
あのでかい手でこんなに繊細で優しくて美味しいものを作っているのかと思うと、物凄い違和感が襲ってくる。
正直樹海の謎より、このおっさんの器用さの謎を解き明かしたい、なんていったら、ギルマスにがみがみ怒られるだろうな。
この腕で超可愛い女の子なら完璧なんだけどなあと、ぼんやりスプーンを口に咥えながら未だカミュナと格闘しているダヴラスを見つめた。